Japan Expo初日、特設ライブハウス。ここでVOCALOIDの新曲発表会があると聞いて訪れた。
会場には、VOCALOIDソフトに登場するバーチャルシンガーキャラクター、初音ミクや鏡音リンのコスプレをしたフランス女性たちも多数いた。

ところが、オープニングでまずスクリーンに映し出されたのは、VOCALOIDとは全く別の少女たちが魔法バトルをしているアニメーション。タイトルは『幻想万華鏡 春雪異変の章』。「東方Project(以下「東方」)」*のファンフィクション(二次創作)によるアニメの予告編だった。

今回新曲を発表したのは、このアニメの音楽も担当したサウンドクリエーターグループ、「幽閉カタルシス」だったのだ。
オープニング上映後には、この『幻想万華鏡』のテーマ曲『色は匂へど散りぬるを』を歌うsenyaさんが、ベネチアの仮装のようなアイマスクをつけて登場。

「幽閉カタルシス」とは姉妹レーベルの「幽閉サテライト」として、『小悪魔りんご』『手のひらピアニッシモ』『Opposite World』、そして冒頭のテーマ曲を再度披露した。意外なことに東方Projectは海外でも相当認知されており、観客の反応も上々、ノリノリのライブとなった。

その後、スクリーン上でVOCALOIDの開発者、剣持秀紀氏(ヤマハ)がVOCALOIDの機能やキャラクターボーカル(CV)シリーズ商品の展開について説明した。 CVシリーズは音楽ソフトとしての枠を超え、特に「初音ミク」というキャラクターはインターネットによって作られたバーチャルアイドルとなった。


CVシリーズは「音楽というメディアの中のキャラクターをプロデュース可能にした製品」として画期的な意味を持つ。ユーザーの誰もが、アイドル/シンガーとしてのキャラクターのプロデューサーになれるのである。投稿サイトに次々と投稿されたミクの音楽動画が注目され、それらがプロモーションとなって新たなユーザーによるオリジナル曲の動画がフィードバックされ、人気が爆発的に上昇。ミクを使用したオリジナルアルバムが、オリコンだけではなく米iTunesStoreのWorldチャートで1位になるなど、ミクはVOCALOIDの代名詞と言えるべき存在に成長した。

ミクを使用した楽曲からはさらに“歌ってみた”や“踊ってみた”という動画が派生し、ニコニコ動画ではVOCALOID関連のファンフィクション動画が17000件以上みつかるという。日本の同人ゲームである「東方」が海外に知られているのも、こうした動画サイトが媒介となっているからだろう。

最後に、VOCALOIDを使った「幽閉カタルシス」の『ソーシャルネットワーク・ディストピア』(初音ミク、めぐっぽいど)『いじわるアイデンティティ』(初音ミク)のPV紹介、そして再びsenyaさんを迎えて“歌ってみた”のパフォーマンスが行われた。

特に『いじわるアイデンティティ』は初期のミクを思い出させる可愛らしい曲だった。6曲を歌ったsenyaさんの声は愛らしくも力強くもあり、最後まで素顔を決して明かさない謎の歌手として強く印象に残った。

今回出会ったVOCALOIDも「東方」も、著作権問題の絡むファンフィクションに関しては寛容な立場が取られている**。むしろ、ファンフィクションによって人気が支えられていると言ってもいいだろう。そして、ファンフィクションから新たなクリエーターやアーティストが育っていく。

「幽閉サテライト」のようなクロスプロモーションの周辺はとても好循環だ。 また、動画投稿サイト有志の手により、VOCALOIDのさまざまなイラストや3DCGモデルが複数作成されている。

セガからもミクを題材としたリズムアクションゲーム「初音ミク -Project DIVA-」が発売された。3Dミクのバーチャルライブも大人気だ。

毎年開催されている北米最大級のアニメフェスティバル「Anime Expo」でも、ミクの海外初ライブイベント「MIKUNOPOLIS 2011 in LOS ANGELES」が、今回の発表会直後の3日、大成功のうちに終わった。 海を越えて、ファンフィクションの世界が広がっていく。そんな未来図をVOCALOIDが作ってくれるように思えた。

(文・西村麻希)

 

幽閉カタルシスhttp://yuuhei-katharsis.com/リンクより『いじわるアイデンティティ』の動画が視聴できる。
幽閉サテライトhttp://www.yuuhei-satellite.jp/

*東方Project(とうほうプロジェクト)とは、個人サークル「上海アリス幻樂団」制作の弾幕シューティングゲームを中心とする作品群の総称。特にBGMに対する評価は高く、ファンによる各種アレンジが多数存在し、それらはニコニコ動画上にも多数アップロードされている。上海アリス幻樂団http://www16.big.or.jp/~zun/

**ITメディアニュース「インタフェースとしての初音ミク」と、ニコ動“祭り”の進化論http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1003/11/news078.html東方楽曲及びZUN氏作曲楽曲の二次使用に関する条件http://jiyugiga.sakura.ne.jp/about_zun%27smusic.html

参考文献
米国トヨタ、「初音ミク」を新型カローラCMに起用

http://www.j-cast.com/2011/05/06094858.html

「ボーカロイド初音ミク 世界のヴァーチャル歌姫」への海外反応http://afiguchi.seesaa.net/article/211667125.html

初音ミク、海外初ライブ開催間近 クリプトン社長「世界をつなげる『ノリ』に」http://woman.excite.co.jp/News/column/20110702/Ncn_2011_07_post-731.html

初音ミクが開く“創造の扉”

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0802/25/news017.html

AX2011 Miku Conference(MIKUNOPOLIS 2011の直前セッション)http://www.bunkaextend.com/ax2011_06.html

英語版・初音ミクの詳細がわかった! Miku Conference会場レポートhttp://weekly.ascii.jp/elem/000/000/048/48558/

初音ミク海外初ライブでノキアシアターに集まったUSファンを魅了

http://news.mu-mo.net/view/16964

海外で支持されるボーカロイド iTunes売り上げは米国が3割

http://www.oshiete-kun.net/archives/2010/07/_itunes3.html