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MANGA in France

トンカム社「DTP(Desktop publishing) 稲葉里子さんインタビュー

今回、フランスのマンガ専門出版社、トンカム社で働く、稲葉里子(いなばさとこ)さんに、出版のお仕事についてお話を伺いました。
稲葉さんは7歳の時にご両親に連れられ渡仏。それ以来ずっとパリに住み、トンカムへは、学生の頃に実地授業として1年間働いた縁で、そのまま就職。小学校から現地校へ入学しているので、今では完璧なバイリンガルで、トンカム社でも活躍しています。

 

Eurojapancomic(以下EJC):現在、トンカム社で働き始めてどのくらいですか?
稲葉:トンカムには、学生の時に1年間働いて、その後そのまま就職して3年くらいになります。

EJC:日本人スタッフは他にもいらっしゃるのでしょうか?
稲葉:事務所で働いているスタッフは他に10名ほどいますが、日本人は自分1人で、あとは全員フランス人スタッフです。事務所勤務の他に、日本との交渉・営業で、日本人スタッフがもう1名います。こちらは、日本とフランスの両方を行ったり来たりで、1年の半分くらいは日本、もう半分はフランスにいる感じです。

EJC:稲葉さんのお仕事は、具体的にどのような内容なのでしょうか?
稲葉:私の仕事は、フランス語ではPAOと言いますが、日本でDTPと言われる、パソコンを使った出版製作です。主な仕事内容は、吹き出しの中の台詞や、擬音語・擬態語などを、パソコンを使って日本語からフランス語へ置き換えていく仕事です。訳自体は翻訳の担当が行い、私はその訳をもらって、それぞれの場所に入れていくわけです。

EJC:稲葉さんがお1人で全部、そのDTPの作業をしていらっしゃるのですか?
稲葉:いいえ、事務所では私のほかにあと2名、DTP担当のフランス人スタッフがいます。また、外部にも1人いますので、全部で3人半、くらいですね。
事務所内の出版部門としては、まずアートディレクターがいて、彼が出版全体の責任者で、その下に本の製作担当(使う紙や印刷を決める)と、私たちDTPスタッフがいます。
社内でDTPの部署を置いているのは、おそらくトンカムだけだと思います。他の出版社は翻訳と同じく、DTPも外部に頼む所がほとんどなので。

EJC:仕事の流れについて、簡単に教えて頂けますか?
稲葉:そうですね、まず、出版が決まると、日本からその作品の本が3冊送られてきます。これが原稿代わりです。集英社さんからは、数ヶ月ほど前から、本ではなくデータでオリジナル原稿が送られてくるようになりましたが、他の出版社さんなどは今でも本のままです。
送られてきた3冊のうち、1冊は会社で保管し、1冊を翻訳者へ、1冊はDTPが使います。 翻訳者は、本の1ページごとに、吹き出しにアルファベットをaから順に書き込んでいき、そのアルファベットに合わせて訳を別紙に作っていきます。
私たちは、日本から送られてきた本1冊を、ページを1枚ずつはがしてバラバラにし、スキャンしてパソコン上に取り込みます。 訳ができあがると、翻訳者からアルファベットが書き込まれた本と訳の書かれたテキストが一緒に送られてきます。
私たちはパソコン上に取り込んだ各ページの吹き出しの日本語台詞を消し、送られてきたフランス語の訳を、アルファベットで場所を照らし合わせながら入れていきます。
擬音語や擬態語も、フランス語に置き替える場合は、絵の中にあるのを消さないといけないので、その作業が大変です。背景が白い場合はまだいいのですが、絵と重なっている場合は、パソコンでその部分を拡大し、文字を消した後に、近くの模様をその上に被せていったりします。

トンカムでは1ヶ月に約10冊のマンガを出版しているので、DTPに関しては1人1ヶ月3冊程度が持分になりますね。基本的に、1つの作品は1人の翻訳者と1人のDTPが担当します。忙しい時は手伝ってもらうことも、もちろんありますが。
作品の分担は、手持ちの仕事や全体のバランスを見ながら、なるべく好きな作品をそれぞれがやれるようにしています。好きな作品の方が、より内容が分かりやすく、作風に合ったものができるので、色々な意味で仕事もはかどりますから。
他の2人のフランス人DTPスタッフは、日本語は全く分からないので、翻訳者の訳をそのまま入れていきますが、自分は日本語も分かるので、時々、ここは?と思う所があると、周りのスタッフと話して訳を変更することもあります。また、細かい感情表現なども分かりやすいので、どちらかというと、少女マンガを担当することが多いですね。今まで関わった作品は、「ふしぎ遊戯」、「紅茶王子」、「ゴットチャイルド」などです。

「紅茶王子」 右が日本のオリジナル、左はフランス語版。
トンカム社では、基本的に日本と同じ絵柄を使用していますが、出版社や作品によっては、表紙の絵柄をフランス向けに変えることもあるそうです。

仕事で最も気を付けている点は、日本の原作の雰囲気を、どれだけ壊さずに、且つフランス人にもどれだけ分かりやすく、いかにオリジナルのままの雰囲気を伝えられるか、と言う点です。そういう意味では、擬音語・擬態語だけでなく、吹き出しの台詞に使うフォントも、できるだけ日本と近いものにして、作品のイメージを崩さないよう、注意しています。

EJC:直接の翻訳担当ではありませんが、稲葉さんからの視点で、どのように翻訳の仕事がされているのか、簡単に教えて頂けますか?
稲葉:先にも話しましたが、翻訳は外部のフリー翻訳者に全て頼んでいます。人数は10名ほどいて、フランス人もいますし、日本人もいます。

吹き出しの台詞はもちろん全て訳しますが、絵と一体になっている擬音語や擬態語は、作品によって、フランス語に訳したり、日本語のまま残したりします。これは、社内会議で、全員で話し合って決めています。
作品の内容を見て、擬音語や擬態語が、日本語のままでも十分内容が伝わると判断されれば、日本語のまま残し、逆にそれらがストーリーに密接していて、訳さないと内容が分かりづらいような作品はフランス語に訳します。また、絵との一体感も考え、絵の背景の一部として書かれている時は、なるべく日本語のまま残すようにしています。
擬音語・擬態語も全て訳す、と決まった作品に関しては、全てフランス語にしますが、基本的には日本語のまま残す、と決めた作品については、場合によっては上記の理由で、一部だけ訳すことがありますね。本当にケース・バイ・ケースです

読者の反応はそれぞれです。やはり全て意味が知りたいので訳してある方が良いと言う人もいるし、逆に日本語のままの方が、原作のままの雰囲気も味わえるので良いと言う人もいます。

パソコン上で吹き出しの台詞を入れ替えていきます。
フランス語に訳してある
擬音語の部分
日本語のままの擬音語

翻訳は、基本的に訳す人に全てお任せなので、その人次第で、作風が決まってしまいます。 トンカムでは、手塚治虫作品はいつもそれ専門の翻訳者にお願いしています。また、あの人は繊細な感情表現が上手いから少女マンガを頼もうとか、この人はユーモアのセンスがあるのでギャグマンガを頼もうとか、作品と翻訳者の特徴を見て、訳してもらう人を決めています。

今、個人的に読んでいるマンガは「デスノート」。もちろん日本語ですよ(笑)。日本の作品をあえてフランス語で読む必要もないですし、フランス語で読むと、訳し方が「私だったらこうするのに」など、いちいちチェックしてしまうので、単純に楽しめないんです(笑)

 

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